あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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人の心をつかむプレゼンテーションは、小泉進次郎から学べ!

※この記事は政治信条や政策、政党を支援して書いているものではなく、あくまでもプレゼンテーションという視点から小泉氏の演説の内容に注目して書いています。

かるび(@karub_imalive)です。

参議院選挙も終わり、あの喧騒から1週間経過しましたね。各種数字も確定し、結果は予想通り自民党の勝利に終わりました。今回の選挙戦、各種特番やその後の新聞などを追っていたのですが、一つ印象深かったのが、小泉進次郎の大活躍です。

例えば、全選挙期間中の応援演説回数と移動距離のすさまじさ。本人のブログでもこんな記載がありました。

参院選を終えて|小泉進次郎オフィシャルブログ「日本の政治を未来のために~自由民主党~」Powered by Ameba

18日間で、22道県・98ヶ所で演説を行い、移動した距離は18,851kmに及びました。前回の衆院選での移動距離は、10日間で、東京から南極までと同じくらいの15,213kmだったのですが、今回はそれ以上です。

応援演説・移動距離ともに、民進党の岡田党首の17,774km、安倍総理の16,240kmよりも長く、いかに彼の応援演説が頼りにされていたのかよくわかりますね。

また、こんなことがありました。 

詳しくは記事を見て欲しいのですが、選挙速報番組の全ての民放で小泉進次郎の応援演説を特集し、同時に4番組に出演していたという話。

僕は選挙後の選挙特報をそんなに真面目には見ない方です。ただ、今回は池上無双について興味があったので、ビデオに録画してじっくり見てみました。すると、池上無双も確かに凄いのですが、もっと印象に残ったのは、小泉進次郎の卓越したスピーチ力と高コミュニケーション能力。もう仰天しました。こんなにすごかったとは。個人的には「池上無双」というより「小泉無双」といった感じです。ちょっと調べたら、進次郎の趣味のうちの一つに「落語」とあり、彼のプレゼンテーションの上手さは、僕も最近良く聞いている落語から来ているという話もよく聞きます。

そのあたりもあって、今日のエントリでは、なぜ小泉進次郎のスピーチはこんなにも凄いのか?この技術をなんとか我々の仕事などにも応用できないか?その観点から、少し考えてみたいと思います。

1.特に「つかみ」に非常に力をいれている

商談やプレゼンテーションでも、一番大事なのは本題に入る前の「つかみ」の部分です。開始数分で、場を和ませ、相手に「聞いてもらえるように」するため、雑談を始め、いろいろな工夫をしますよね。

それは僕も過去エントリーでこんな記事をあげています。 

進次郎も、この「つかみ」の部分にものすごく気を使って演説を組み立てています。文芸春秋2016年8月号「田中角栄と小泉進次郎」特集のP96では、

つかみが上手くできた時とそうじゃない時で、演説の全体が変わる。最初が上手くすっと入れると、そのあと最後まで聴衆の皆さんに飽きられないように言いたいことを伝えられるような、まず空気ができる。その空気を作れるかどうかっていうのは演説の良し悪しに最大の影響を与えると言ってもいい

このように語っています。

実際、Youtubeやニコニコ動画にアップされている各種演説を丁寧に聴きこんでいくと、演説の冒頭5分は、つかみに全力をかけている。彼の好きな落語では、「マクラ」の部分にあたります。

では、次に、つかみにどんな工夫を入れているのか。ちょっと見てみましょう。

つかみの工夫1:だじゃれ、ギャグで和ませる

オヤジギャグに近い部分もありますが、選挙での聴衆は、中高年が中心。だじゃれとの相性が良いのでしょう。外している時もありますが、大抵は笑いを誘い、高い効果をあげています。

例えば、2013年の選挙前に開かれた自民党秋田県支部の党内セミナーで、その県支部重鎮の中泉末司氏を褒め称えるつかみ部分です。

自民党青年局長の小泉進次郎でございます。秋田には、前回の参議院選挙で、石井浩郎先生の応援で2010年におじゃまをしてから、約3年ぶりでございますが、何度来ても、秋田はあきないですね(爆笑、拍手)[・・・]名前を見てください。小泉より大きいのが中泉!(爆笑)私よりも背は大きい!私よりも体は大きい!文字通り名前も大きい!そしてなんとか、この秋田を再生させたいという思いが、誰よりも大きい・・・

開始1分ほどで2つもダジャレを放り込み、完全に会場を掴んでしまいました。本当にすごい。

つかみの工夫2:関係者へのお礼と共感メッセージを必ず入れる

相手からの警戒心を消すための最高の切り札。商談などで、時にはキツイことを言わなきゃいけない時ってありますよね。その時に有効なのがこの「相手へのお礼」や「共感メッセージ」。これを冒頭に入れるだけでプレゼンテーション、商談の出来は違ってきます。

そして、小泉進次郎は、ほとんどのスピーチでこの「お礼」「共感」カードをつかみにおいて切ってきます。これは、2013年5月に、国会予算委員会にて、「与党」の立場にて初の質問に立った進次郎氏のスピーチです。同じ与党にどう厳しい質問を切り込んでいくのか、注目されました。すると・・・

与党の立場でありながら、若さ全開で厳しめの論調で質問を切り込んでいく進次郎。でも最初の部分で、しっかりと「あなたと同じですよ」というメッセージをいれて警戒心を解いてきます。

「おはようございます。自由民主党の小泉進次郎でございます。きょうは私にとって与党として初めての質問の機会をいただきまして、本当にありがとうございます。【お礼】今私は自民党の青年局長という任にありますが、安倍総理も元青年局長であり、麻生副総理も元青年局長であります。【共感】(・・・以下質問)」

さすがですね。

つかみの工夫3:聴衆をほめる

お礼、共感と続き、最後のダメ押しが、聴衆をほめるということ。プレゼン等でもかなり有効です。お客は悪い気分がまったくしない。この聴衆ほめはほぼ100%のスピーチでやってきます。これは、2016年7月の今回の参院選にて、青森県田舎館(いなかだて)村に応援演説に入った時の映像です。

「私は、実はさっき、車でばーっとあの、車で展望台のところまで行ってきて、上から田んぼアート。この村の景色を一望できるところから見させていただきました。もう一気に、田舎館村のファンにになりました!(拍手)」

そして、畳み掛けるようにさらに集中的に田舎館村のことを褒めまくります。1分近くの間に、水田、公園、場外競馬場、田んぼアート、村の名前など、5つ具体的にピックアップして、あざといくらい全力で持ち上げていきます。そして、最後は得意のダジャレで落とす。いなかだって、いなかだって・・・(笑)

それで、近いところを見ると、米のきれーいな水田が広がっていて、近くには武道をやってる方もいて、そしてすぐそこの公園には、こんな公園他の街にはなかなかないと思うような、ミニ遊園地のようなね、遊具もあって、その子供が遊んでる間に、大人の人達は、競馬も楽しめて(聴衆爆笑)、この村はいい村ですねぇ!

だから私は、あの田んぼアートの最初始まった時から今までの作品を展望台の階段の所に写真が飾ってあって全部見たけど、レベルアップが著しい。最初の時のアートと、今年のこのゴジラ、もうレベルが全然違いますよ。一人でも多くの人に見て欲しい!

ひとりでも多くの人にこの田舎館村に来てもらいたいという、村をなんとかしたいという、この村の皆さんの努力の結晶が、私はこの、田んぼアートであるということが、肌で感じることが出来て何で全国の1700ある地方自治体の中で、田舎という文字が村についている名前が珍しい、そういう名前の意味はなんだろうと思ったけど、今日見てよく分かりました。なんで、田舎館村は田舎館村という名前になったか。それは全国の田舎に、田舎だってがんばってるよ。いなかだっていなかだっていなかだって頑張ってるよ。それを少しでもね伝えたい。

2.基礎をしっかりおさえたプレゼン技術

最強のつかみ。本当に勉強になりますが、そのつかみを支えるのは、意外に地味で、当たり前とも言える基礎的なプレゼン技術です。基礎・土台がきちんとできているので、こういったつかみが生きてくるのでしょう。では、進次郎氏のスピーチから一つ一つ見ていきたいと思います。

基礎技術1:ゆっくり、つまらずに話す

進次郎が、スピーチやプレゼンテーションで「えー、うー、あー、」と詰まりながら話すことは一切ありません。ゆっくり、一言ずつ噛み締めながら、落ち着いて話す。プレゼンテーションでは、わかっていながら、なかなかできない基本事項です。

その基本が、完全に身についているのです。たとえば、昨年大晦日に国会議事堂前で撮影した動画スピーチ。淡々と語りますが、ゆっくり、わかりやすく話しかけます。基本がしっかり出来ているんだな、と思わされるスピーチです。

基礎技術2:聴衆、相手全員への配慮(アイコンタクト、語りかけ)

どの動画でもいいので、しばらく顔の首振りだけチェックしてみてください。必ず、目の前の聴衆全員に対して、順番に語りかけています。右向き→正面向き→左向き、と、聴衆全てに対してアイコンタクトを欠かさない姿勢、これが共感を生むのでしょう。

オバマ大統領も、この辺りは上手なのだそうです。

名人オバマの「右64回、左62回」のアイコンタクトを学べ(日本大学芸術学部教授・佐藤綾子)<参院選・特別コラム『選挙・演説に学ぶ、仕事で使えるパフォーマンス学のコツ』第5回>(gooニュース) - goo ニュース

また、インタビュー等でも、複数で来た場合は必ず、全員に対して語りかけます。例えば、池上選挙番組で、池上氏と若手アイドル、アナウンサーたちが小泉氏にインタビューするシーンがあります。

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たとえば、こういうシーンで、普通の政治家であれば、池上氏以外のメンバーは完全に置物状態になってしまい、池上氏にしか目線を合わせようとしません。そこでも、進次郎氏は必ず、脇にいるアイドルや若手アナウンサーにも進次郎氏側から話を振っていき、スポットライトを当ててあげて、引き立てにいきます。このあたりが非常に上手い。

基礎技術3:プレゼン前の事前調査の徹底

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彼は、全国各地で応援演説に入る際、必ずそのご当地の良い所や人を全力でほめに行きます。これを実現するには、必ず事前のリサーチが欠かせません。特に、具体的名称や具体的数値、具体的人名などは、絶対にはずさない。これにより、リアリティと本気度が伝わるのです。

また、演説場所に来てからすぐに演説をするのではなく、時間があれば、周りを視察して、現地で感じた生の感想を必ず入れていく。先の田舎館村では、田んぼアートを見て、いくつもネタを仕入れていました。分刻みのスケジュールの中、一瞬一瞬にアンテナを張っていることがよく分かります。

基礎技術4:聴衆とのコミュニケーション

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進次郎氏は、聴衆へ一方的に煽るだけでなく、聴衆のヤジに反応したり、聴衆に向かって、「おかあさん、どうですか?」と質問したり、聴衆と貪欲にコミュニケーションを取っていきます。聴衆いじりですね。上品にやってます。

今期の参院選で目立ったのは、18才、19才の若者を選挙カー壇上へ上げるパフォーマンス。これは非常に親近感を構築し、演説にフックを持たせるために効果があったと思われます。

【参院選】小泉進次郎氏の呼びかけに自民選挙カーに上がった若者の1人は野党支持者だった…思わぬハプニング、県連は「構わない」と冷静 - 産経ニュース

壇上に挙げるパフォーマンスは小泉進次郎が今年好んで使っている手法。

2016/07/15 10:49

まとめ

どうでしょうか。小泉進次郎が政治家デビューしてから7年。今や将来の総理候補として自民党内からも大いに期待されています。その彼のパフォーマンスを支えるのが、この圧倒的なプレゼンテーションスキルです。一つ一つをこうしてみてみると、細かい工夫を積み重ねているんだな、っていうのがよくわかりますよね。
進次郎自身も、オフィシャルサイトにて、こう書いています。
 小泉進次郎オフィシャルサイト|プロフィール

“自分の街頭演説をICレコーダーで録音し、毎回寝る前に聞いていた。また、事務所のスタッフに演説について来てもらって、率直なフィードバックを受けるようにしていた。試行錯誤の日々だった」。”

2016/07/17 08:45

そう、彼も必ずしも天才、というわけじゃないんですよね。大学だって東大早慶といった名門校じゃないですし。今でこそ自民党の若きエースとなって、応援演説で総理を凌ぐ忙しさとなった進次郎ですが、デビューしたての頃は、こうした地道な努力を積み重ねているんですね。

だから、私達も、進次郎のように努力すればうまくなる余地があると思うんです。プレゼンテーションの技術を学ぶ際、無料でいつでも手に入る最高の教材として、小泉進次郎という素材があるということ。それが、このエントリで伝わったのであれば幸いです。

それではまた。
かるび

【追記】このエントリを書いて以来、もう少し深く書籍をあたってみたのですが、この本に上手くまとめられています。進次郎が演説でダジャレ・体験談等を踏まえてなぜこれだけのレベルのプレゼンテーションができるようになったのか、より深くエピソードを知ることのできる書籍です。安いので是非。