あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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【ネタバレ有】「美しい星」感想・レビューとあらすじ徹底解説!/難解だけど見応え抜群のSF映画!さすが吉田大八監督!

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【2017年5月31日最終更新】

かるび(@karub_imalive)です。

5月26日に封切られた映画「美しい星」を見てきました。監督デビュー以来まだ6作目と寡作ながら、どの作品も水準以上に仕上げてくる吉田大八監督。あの「桐島」「紙の月」の吉田監督の作品だから見る!という人は結構多かったのではないでしょうか?

しかし、今作は変わった作品でした。正気なのか奇行なのか判然としない登場人物達と、いまいちハッキリしない謎めいたストーリーなど、非常に風変わりな問題作。文学性やアート性が高く、見終わった後に、一体何が言いたかったのか誰かと感想を放したくなる作品だったと思います。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「美しい星」の基本情報

<「美しい星」予告動画>
※下記画像をクリックすると動画がスタートします

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】吉田大八(「桐島、部活やめるってよ。」「紙の月」他)
【配給】GAGA
【時間】127分
【原作】三島由紀夫「美しい星」

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本作は、吉田監督が映画監督になろうと志した30年前からずっと温めてきた思い入れのある作品だそうです。東西冷戦がエスカレートし、核戦争での人類滅亡の危機が現実化しつつあった1962年。国際的な政治危機が地球滅亡につながりかねない一触即発の世界情勢を憂慮した三島由紀夫は、SFと純文学のクロスオーバー作品として、原作小説「美しい星」を出版しました。

本作品では、すでに70年代に2度ドラマ化(TVドラマ、ラジオドラマ)を果たしており、近年では舞台にもなっていますね。

映画化については、三島の生前、数々の監督からオファーがあったそうですが、三島由紀夫が「大島渚か市川崑でなければダメだ」と言って難色を示し、映画化の話はなかなかまとまらなかったそうです。三島の死後約50年が経過した2017年に、ついに初映画化にこぎつけたのは意義深かったのではないでしょうか?

2.映画「美しい星」の 主要登場人物とキャスト

本作では、宇宙人一家と政治家秘書、黒木の5人を覚えておけばOKです。その他のキャストも、いぶし銀のような職人系の人材をオーディションで丁寧に選んだだけあって、非常に各キャストの演技は充実していました。

大杉重一郎:火星人(リリー・フランキー)f:id:hisatsugu79:20170526203254j:plain

本格的に俳優活動を開始したのは40代後半に入ってからというリリー・フランキーですが、昨年「SCOOP!」2度目の日本アカデミー賞(助演男優賞)を獲得するなど、この世代の個性は俳優としてゆるぎない地位を獲得した感があります。本作でも、その怪演ぶりはすさまじいものがありました。2017年は大根仁監督の「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」、「一茶」と2作品が待機中。

大杉伊予子:地球人(中島朋子)f:id:hisatsugu79:20170526203309j:plain

同時期の封切り作品「家族はつらいよ2」でも同年代の女性を演じていますが、吉田監督が起用理由として挙げた通り、「安定感」のある人物を好演していました。主婦役が本当に似合う年齢になってきましたね。物語中、マルチにハマっていくに連れて、服装がムダにゴージャスになっていく細かい描写が個人的にはツボでした。

大杉一雄:水星人(亀梨和也)
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テレビで見ていて、「内側に怒りを秘めた表情」が気になり、起用を決めたという吉田監督。確かに「PとJK」(2017)でもどこか憂いのある表情が目立っていたし、やっぱり彼の波乱に満ちたアイドル人生の賜物なのでしょうか?演技力は飛び抜けてすごい!というわけではありませんが、今回はハマリ役だったと思います。

大杉暁子:金星人(橋本愛)f:id:hisatsugu79:20170526203325j:plain

吉田大八監督とは「桐島、部活やめるってよ」(2012)以来、4年ぶりとなりましたが、スイーツ映画でひっぱりだこになる年頃なのに、出演作は例えば、ここ数作でも「古都」(2016)や「PARKS」(2017)など、文学的だったり小規模公開の作品が多いイメージ。海岸でUFOを呼ぶシーンは今作の隠れたハイライト!

黒木(佐々木蔵之介)
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時代劇からコメディ、サスペンス、ヒューマンものなどあらゆるジャンルをオールマイティにこなす今一番旬の俳優。今年に入って、すでに「破門」「3月のライオン」「花戦さ」などハイペースで出演しまくっています。本作では、結局最後までどんな人物なのかわからない謎の宇宙人を好演していました。

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3.結末までのあらすじ紹介(※ネタバレ注)

大杉重一郎、UFO体験をする

大杉重一郎は、テレビでもちょっと有名な気象予報士だった。その日は重一郎の誕生日で、妻、伊余子、長男、一雄、長女、暁子と会食に出かけてきていた。フリーターとして自転車バイク便のバイトが長引いて遅れてる一雄を待つ間、彼の愛人、中井玲奈から電話がかかってきていた。職場でアシスタントを務める若い気象予報士だった。

別の日。重一郎は、JTNテレビのニュース番組のコーナーに毎日出演していた。今年の冬は暖冬で、1月なのに4月並の陽気が続いていた。仕事が終わると、不倫相手の玲奈とホテルで楽しみ、玲奈と車で帰る途中に、ものすごい光に遭遇し、そのまま気を失ってしまった。

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重一郎が気づくと、知らない田んぼの真中に車が座礁していた。気づいたら玲奈は横におらず、昨晩強烈な光と遭遇して以来、その後の記憶がなかった。

翌日の天気予報は、アシスタントの玲奈がカバーしてくれた。各方面に謝罪して周りつつ、玲奈に昨晩のことを聞き出そうとしたが、玲奈には特に変わったことはなかった。

別の日、重一郎は、ニュース開始前に屋上で天気を確認していた。予測データだけでなく、自分の目で天気を確認するのも彼の仕事前の大事なこだわりだった。その日、たまたまカメラマンも屋上にいたため、捕まえてみると、彼はUFOマニアなのだった。重一郎が少し前の話をすると、彼は「アブダクション」経験だったのかもしれないと分析し、重一郎にUFOマニアの本を貸してくれた。怖くなった彼は、身体に異常がないか控室で確認してみたが、特に体に異常はなかった。

覚醒していく大杉家のメンバー

しかし、その日天気予報コーナーの前にあった「火星探査」報道を見てなぜだか感動してしまい、本番になっても泣いてしまい声を出せなくなってしまった。それが彼の火星人としての覚醒体験の始まりだった。

一方、長男の一雄は、自転車便ライダーのバイトに明け暮れていた。車の隙間を縫うように走り、荷物を届ける過酷な仕事だが、一仕事終えたその日、危険な目に合わされた車を深追いして地下の駐車場で対面すると、車から出てきたのは政治家、鷹森雄一郎とその秘書、黒木だった。

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仕事が終わり、彼女とプラネタリウムでデートした一雄だったが、プラネタリウムでつい彼女に迫り過ぎた一雄は、彼女に振られてプラネタリウムに独り取り残されてしまう。呆然としてそのまま見ていたら、「水星」のスライドを見た時、目が釘付けになってしまった。それが、一雄が水星人として覚醒した最初の経験だった。

母、伊余子は、友人との料理会で、和歌山の源流水を使った「美しい水」のディストリビューターにならないかと誘いを受けていた。後日、誘われた友人の事務所に行って、正式に契約を済ませた伊余子は、さっそく100ケースを購入し、自らも「美しい水」の拡販に勤しむのだった。美味しい水を飲んで、それを誰かに紹介して入ってきたお金で海外旅行でも家族全員で行ければ、、、とささやかな希望を持って始めたのだった。

長女、暁子は大学生だった。人との付き合いが苦手な内向的な性格だったが、その飛び抜けた容姿に対して、暁子に声をかけてくる男は非常に多かった。その日も、教授からゼミに誘われたり、広告研究会の男からミスコンに誘われたりした。

その日の学校帰りの途中で、暁子は路上で弾き語りをする男の歌に釘付けになった。その男は、タケミヤカオルと名乗り、「金星」というタイトルのデモCDを購入した暁子は、家で聴くと、いてもたってもいられなくなり、ネットで彼のライブ会場を探し出し、翌日新幹線で金沢へと向かった。

ライブ会場に到着すると、彼女はタケミヤから直接声をかけてもらい、翌日直接料亭で会うことにした。

一方、重一郎は、最近胃の調子が悪かった。妻の手がける「美しい水」で胃薬を服用してみたが、気分が優れなかった。

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料亭でタケミヤと食事をしながら話をした暁子は、「自分は金星人である」と名乗るタケミヤと同じく自分が金星人なのではないかと思い始めた。食事が終わったら、タケミヤと一緒に日本海の海岸で2体のUFOと遭遇した暁子は、その思いが確信に変わっていった。

一雄は、政治家秘書、黒木の計らいで、自転車便を辞めて、政治家鷹森参議院議員の秘書となっていた。彼の初めての仕事で、エレベーターに乗った時に、鷹森がヒットマンに襲われるビジョンを見た一雄は、そのビジョンに先回りしてヒットマンに殴りかかり、未然に暗殺を防ぐことができた。まるで水星人としての特殊能力が覚醒したかのようだった。

それぞれの使命に目覚める家族達

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火星人として覚醒した重一郎は、「地球を守らねば!」という使命感にかられるようになっていた。天気予報の時に、予報そっちのけで酸性雨や山火事の話をして、スタッフを驚かせた。ニュース終了後の反省会の席で、スタッフから諌められたが、彼は全く意に介さなかった。彼は、自宅に帰るとさらに地球温暖化についての資料を読み漁るのだった。そして、翌日もさらに天気予報そっちのけで過激なトークと変な決めポーズで天気予報を締めるのだった。

一方、一雄は鷹森の秘書として順調に日々を重ねて行ったが、ある日、帰宅途中で忘れ物に気がついてオフィスに戻ると、別の部屋で黒木が鷹森を土下座させている驚愕のシーンを見てしまった。鷹森は、黒木の操り人形だったのだ。

黒木もまた、宇宙人だったのだ。一雄を水星人だと見抜いた黒木は、一雄になぜ鷹森をコントロールしているのか、人間がいかに地球を自分たちで守ることができていないか、信頼に足らないか力説するのだった。

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妻、伊余子は唯一宇宙人としてのアイデンティティに目覚めてはいなかったが、こちらは誘われて始めた「美しい水」マルチ商法で意外な才能を発揮し、その日表彰式に呼ばれていた。奇しくも、その会合に政治家の鷹森と秘書の黒木も来ていたのだ。黒木は、伊余子を見つけると、ご主人と私には方向性は違うが共通項がある、と告げた。

金沢から帰り、金星人として目覚めた暁子は、一度は断った大学のミスコンに出場することを決めた。しかし、つわりのような症状に悩み、母、伊余子と検査に行ったところ妊娠していることが判明した。暁子は、金星人として特殊な処女懐胎をしたと信じており、自らの想像力についてこれない母に「やっぱ地球人だね」と斬って捨てた。

一方、より黒木の信頼が厚くなった一雄は、黒木の極秘指令もこなすようになっていた。外国の要人から、サウナで太陽光発電についての極秘資料を受け取るのだった。黒木と鷹森は、太陽光発電を推進しようとしていた。そして、鷹森の後継者として、地球を変えるために政治家を志そうとしていた。

その日、ちょうど天気予報コーナーの直前に、ゲスト出演した鷹森が、太陽光発電への投資推進を熱く語ってたところ、次のコーナーで出演予定だった重一郎が我慢できなくなって暴走し、そこへ乱入するという放送事故が起きた。生態系のバランスが崩れてしまう前にもっと早急な手を打って地球を救わねばならないという主張をした。

重一郎は自宅に帰宅すると、妻の伊余子は、暁子の妊娠が判明した大事な時期にTVで放送事故を起こした重一郎を責めた。重一郎は、金沢に飛んで暁子の子供を妊娠させたであろうタケミヤに会いに行ったが、タケミヤは捕まらなかった。彼のバンドメンバー曰く、タケミヤは借金漬けになり、各方面で女を騙して東京へ行ってしまって行方不明だという。また、「金星」という曲は、タケミヤが作ったものではないことも判明した。

家族の挫折と重一郎の入院

そんな時、伊余子が関わっていた「美しい水」の製造元が薬事法違反で摘発を受けたという報道が入った。自ら主催する説明会で受けたクレームから事務所に逃げ帰ると、事務所はスタッフ達がすでに逃げた後だった。騙された伊余子は、がっくりくるのだった。

重一郎もまた、鷹森からの政治的圧力を受け、前日の騒動の責任を取って降板&謝罪会見を行うことが決定した。謝罪会見は録画で行ったが、やはりどうしても我慢できなかった重一郎は、会見の録画中、またも暴走して「地球温暖化のために立ち上がれ」と演説を初めてしまった。

すると、それをスタジオで見ていた一雄と黒木が収録現場に出てきて、一雄と重一郎、黒木と重一郎はお互いの意見を激しくぶつけ合うのだった。議論は平行線をたどったため、証拠を見せる、と言って、重一郎は黒木たちをTV局の屋上に連れて行き、宇宙との交信を始めたのだった。

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しばらく交信していた重一郎だったが、宇宙船は表れず、代わりに落雷の影響で電灯が消えた時、重一郎は血を吐いて倒れてしまった。黒木の手には意味ありげな「スイッチ」が握られており、黒木はスイッチを自信満々に押したのだった。黒木は、「カウントダウンが始まったぞ」と言った。

倒れて入院した重一郎の診察結果は、末期のステージ4の胃がんで、余命1ヶ月と診断された。そして一雄はいつものように鷹森のオフィスへ出勤したが、IDカードが失効し、中に入れなくなっていた。彼はクビになったのだ。

宇宙船との遭遇

一雄、暁子、伊予子は代わる代わる父の病床へと面会に行ったが、伊予子の発案で、最後は父、重一郎を郊外に連れていき、宇宙船とコンタクトさせたいという。彼らは、重一郎を病床から逃がすと、重一郎の指示で東京を遠く離れた福島の山奥へと向かった。

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途中、不思議な牛にも導かれ、明け方にたどり着いたその場所に、まさに宇宙船が降りてきたのだった。重一郎は、宇宙船の中に吸い込まれて行ったのだった。

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4.ストーリーの感想や評価(※ネタバレ注)

過去の吉田大八作品のエッセンスが詰まった作品だった

本作は、過去に吉田大八監督作品5作品のエッセンスが散りばめられた作品でした。ちょっと変わってますが、集大成的な作品とも言えるかも。例えば、後半クライマックスまで続く大杉家のバラバラ感は、過去の吉田大八作品で見覚えがある風景です。桐島が消えて、右往左往するその友人たちを描いた「桐島、部活やめるってよ。」や、一つ屋根の下で過ごしていても、連帯感が皆無だった風変わりな家族を描いた「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」など。近くにいても、その個性の強さ故なのか、お互いが全く違う方向性を向いていて、全く噛み合わない人間関係は、過去の吉田監督作品に頻出する設定です。

鑑賞者の認識を180度変えてしまうラストシーンやどんでん返し的な仕掛けも、過去作品と共通していました。今作では、原作ラストのその「先」を大胆に踏み込んで、UFOとの遭遇後を描いた宇宙船乗船シーンは、原作ファンにはちょっとしたサプライズでした。「おぉ、マジか!」と思いましたが、これも過去作で心当たりがあります。

例えば、皆少しずつ狂っている田舎の女系社会を描いた「パーマネント野ばら」のラストシーンでのどんでん返しや、預金を横領した女性銀行員の意外な結末を描いた「紙の月」での、意外なエンディングを想起させます。

また、今作は、日本映画では珍しく、政治・社会・時事問題が正面から議論され、重要テーマの一つとして取り上げられました。これも、過去の吉田作品「クヒオ大佐」で1991年当時社会問題となった「湾岸戦争」時の戦争拠出金についての描写を思い起こさせます。

このように、本作は変わった作品ではありますが、振り返ってみると過去の作品のエッセンスが少しずつ散りばめられていた、「吉田大八第一期作品の集大成」とでも言うべき作品だったのかなと思いました。

バランス感覚も絶妙で素晴らしい

本作は、とにかくまず最後までシュールな笑いが散りばめられています。宇宙人意識に目覚め、微妙に考え方や行動が変わっていく暁子と重一郎、ネットワークビジネスにハマり、予想外に活躍する伊余子など笑えるポイント多数。

それでいて、単にコメディ娯楽作品に終わることなく、原作の三島由紀夫作品から感じられる文学的要素やシュルレアリスム的な、狂気と現実が紙一重に折り重なる感じなど、シリアスに味わい深いシーンもしっかり用意されていました。

ちょうど娯楽作品とアート系作品のギリギリ境界線上にうまく着地したっていう感じでしょうか。このあたりのバランス感覚はさすが!

テーマは「わかりやすく」、ストーリーは「わからない」映画だった

本作は、タイトル「美しい星」とあるように、取り上げられたテーマは非常に明快でした。「地球環境問題」です。クライマックスでの一雄VS黒木VS重一郎での三つ巴での激論シーンでは、環境問題についての主要争点が明快に話し合われます。

一雄VS重一郎で討論された「環境問題についての世代間対立」や、黒木VS重一郎で討論された「地球温暖化の真の原因」(人間の活動によるものなのか、単なる長期的気候変動の結果なのか)は、比較的メジャーな論点でしたが、迫力がありました。

また、本作は家族の絆、団結についても分かりやすく取り上げています。なぜなら、映画冒頭とラストが両方とも家族のシーンだからです。映画冒頭、丸テーブルを挟んで向かい合う大杉家は見事にバラバラです。それに対して、ラストシーンで4人の間にはテーブルもなく、手を繋いで宇宙船を見上げていました。

こうした明快だったテーマ設定に対して、ストーリー自体は非常にとらえどころがなく、よく「わからない」のがこの映画の特徴でした。考え抜かれた映像表現で、ストーリーや各キャラクターの心情表現をきっちりとわからせるスタイルだった過去5作品に比べると、今作は圧倒的にわからなさが残ります。

恐らく、確信犯的に「わからなく」しているのだと思います。なぜなら、作品の肝となる部分に限って、ストーリーやキャラクターの心情は敢えて曖昧に描かれ、鑑賞者が様々な解釈をできる余地を作っているからです。

例えば、

・黒木とは何者なのか?宇宙人なのか?
・大杉家は本当に宇宙人なのか?本人達が病んでいるだけなのか?
・黒木が持っていたボタンは何だったのか
・ラストシーンは何が起こったのか?

肝心のシーンをどう読み解くかは、我々鑑賞者に任されている感じなんですよね。何通りも解釈出来得る抽象的な映像表現やストーリーテリングが、「あぁ今回は難解な映画だな」と思わせた主原因かと思いました。

5.伏線や設定などの考察・解説(※ネタバレ注)

本作は、原作にはないオリジナルストーリー部分が多いのですが、敢えて説明がぼかされている点が結構多かったです。そこで、主要なポイントについて、現時点で僕自身が考えている解釈を書いてみたいと思います。(なので後で訂正するかも・・・)

原作との相違点について

本作は、小説版「美しい星」と様々な点において違いがありました。映画パンフレットと映画HPの比較対象表が非常にうまくまとまっていたので、内容を抜粋してまとめておきますね。(映画パンフレットから大部分を抜粋)

  小説 映画
時代設定 1962年(東西冷戦時) 2018年~2019年(近未来)
人類が直面する危機 核戦争 人口爆発、エネルギー問題、
地球温暖化、異常気象
一家の職業 重一郎 高等遊民 テレビ気象予報士
伊余子 専業主婦 専業主婦
(ネットワークビジネス)
一雄 大学生(リア充) フリーター
(自転車メッセンジャー)
暁子 女子学生 女子大生
母星 重一郎:火星
伊余子:木星
一雄:水星
暁子:金星
重一郎:火星
伊余子:地球人
一雄:水星
暁子:金星
ロケーション設定 住居
埼玉県飯能市
暁子の処女懐胎
石川県内灘町
ラストシーン
神奈川県東生田周辺
住居
東京都国立市近辺
暁子の処女懐胎
石川県内灘町
ラストシーン
福島県いわき市近辺
黒木 保守系衆議院議員 参議院議員鷹森の第一秘書
他の敵 仙台在住の
羽黒、曽根、栗田
3人は登場せず、黒木に統合

設定の違いとして面白かったのが伊余子が地球人に変更された理由。映画パンフレットには、以下のように吉田監督のコメントが掲載されています。

母親だけを地球人にしておけば、『覚醒した宇宙人』という存在に対するツッコミを家族の中にあらかじめ含んでおくことができるので、その分この4人がたくましく見えていいんじゃないか、という狙いでした。

確かに、全員宇宙人ならみんな『ボケ』で、バランスとれなくなっちゃいますからね(笑)これは上手な設定変更でした。

劇中では、いっぺんに家族が変になってしまったことで、驚き呆れていた伊余子でしたが、最後はもう慣れたのか、「まぁどっちでもいいや。家族がまとまってくれれば」という感じで意外と動じない、たくましい安定感が中嶋朋子らしくて良かったです。

実は、重一郎は「地球」そのものの象徴だったのでは?

物語中、重一郎は火星人として覚醒し、天気予報コーナーを私物化してまで地球環境保護への必死のアピールを続けます。しかし、物語後半から、重一郎を火星人ではなく「地球」そのもののメタファーとして捉えたほうが、物語がすんなり理解できるのです。

例えば、クライマックスシーンでTV局の屋上で手を振るシーンは、まるで地球自身がSOSを出しているようですし、実際にこの後、黒木に「ボタン」を押された直後、重一郎は血を吐いて倒れてしまいます。今の地球そのものを暗喩しているのではないでしょうか?

また、彼は最後に部下であり不倫相手だった玲奈と別れ際、キスをされてビンタをされます。一体どっちやねん?!と思うのですが、ここでも重一郎=地球、玲奈=地球の人々、と置き換えるとすんなり理解できますね。玲奈は、地球人の一貫しないスタンスを表しています。一方では地球を大事だといいながら、平気で環境破壊をする人類そのものです。

黒木が持っていた「ボタン」が意味するものとは?

これは、まず第一に「原作へのオマージュ」から用意された小道具でしょう。ソ連とアメリカの間で核戦争の危機が迫っていた原作では、たびたびクライマックスの論争で「核ボタンを押す/押さない」についての論争があります。

ただ、今作はあとで黒木からボタンを入手した一雄が分解してみると、ただの玩具だったことが判明します。にもかかわらず、黒木がボタンを全員の前でしっかり押して見せるシーンがありました。

これには2つ意味があると考えられます。

1つは、黒木自身が操る参議員議員、鷹森紀一が国会内で超党派での会派を立ち上げ、黒木の理想とする人類破滅計画にいよいよ着手した、という象徴。

もう1つは、すでに地球環境破壊は後戻り出来ないポイント(ポイントオブノーリターン)まで来てしまったんだという黒木自身の地球環境に対する見立ての象徴。そして、黒木がボタンを押すと、地球=重一郎は血を吐いて一気に瀕死になりました。

山中に現れた「牛」の意味するものとは?

その前に、まず、なぜ山中に牛が彷徨っていたかというと、重一郎が目指したUFOとのコンタクトポイントは、福島第一原発の影響で、立入禁止区域内の場所だったことが深く関係しています。映画中、大杉家の乗った車は、「放射線立ち入り禁止区域」として張られた警察のバリケードを突破して山中に入っていきましたよね?

とすると、この牛は原発近くの牧場から逃げ出して野生化した牛だということですね。このあたりも、実際に核戦争による放射能汚染で人類が滅亡するとした原作への軽いオマージュになっています。「放射能」つながりですね。

さらに、この牛に乗ってコンタクトポイントへと向かったのはなぜなのか?というと、この牛は聖地へのガイド役の象徴なんですよね。日本の故事で、洗濯物を牛のツノに引っかかり、それを追いかけたら善光寺=聖地に着いてしまったという逸話から「牛に引かれて善光寺まいり」という言葉があります。

人間が作り出した放射能汚染で逃げ出して野生化した牛が、UFOの到着地点へ導いてくれたのも皮肉な話です。

ラストシーンの解釈について

ラストシーンでは、UFOを見上げた重一郎は、次の瞬間UFOの船内にいて、地球のはるか下の方を見ると、自分も含めた家族4人が手を降っています。このラストシーンで頭をひねった人も多かったのではないでしょうか?

様々なソースで製作者サイドの話を総合すると、どうやらUFOは火星へ帰還するための連絡船だったと言えそうです。ただし、服装が綺麗になっていて、顔色も良くなっていることや、はるか下には自分の姿も見えるわけです。この解釈としては・・・

・重一郎は、UFO到着時に死亡し、魂だけがUFOに乗っている
・重一郎は死んでおらず、UFOによって過去の映像を見せられている

僕は、最初このシーンを見た時は、重一郎の代わりのクローンが火星から地球へ搬送されてくるシーンだと思っていました。これなら、UFOに乗っている重一郎の顔つきがやたらすっきりしていることや、下に重一郎たち4人が見えるのも自然です。

原作にもないこのラストシーンについては、もうしばらく僕も考えてみたいと思います。

6.まとめ

本作は、わかりやすくカタルシスを感じられる作品でもなかったし、スカッとするようなアクションもありません。モヤモヤわかりづらい部分が残り、スッキリしないですよね。ですが、たまにはこうした「わかりにくさ」を一つずつ熟考して紐解いていく楽しみも映画にはあってもよいのかなと思います。

2回、3回と見ていくと、また違った魅力が見えてくる、それだけのポテンシャルはある映画だと思いますので、是非繰り返してチェックしてみてくださいね。

それではまた。
かるび

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年5月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

原作小説:三島由紀夫「美しい星」

1962年に発表された当初は、高潔な文学作品を書く文壇の第一人者が、格式が劣り世俗的な存在だったSFジャンルを純文学に組み合わせた前衛的なクロスオーバー作品として文壇に衝撃を与えて論争を呼んだ作品。その後、熱狂的な三島作品のファンから根強い支持を得て、出版後55年で累計53万部に到達したそうです。

50年以上前の作品ながら、設定された「地球の危機」というテーマは現在でも全く色あせない新鮮さがあります。映画が気に入った人は是非!

オリジナルサウンドトラック

SFなのか社会派なのか文学作品なのか、混沌としたイメージの本作に、ジャンル横断的な様々なサウンドがばっちりフィットしていました。作品の疾走感や妖しさ、SF的なスペーシーな感じが見事にミックスされた素晴らしいサントラでした。

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上記でオススメした関連作品以外にも、鬼才、吉田大八監督作品を一気に楽しむには、ビデオ・オンデマンドが一番時間をお金を節約できるベストなサービスだと思います。是非検討してみてくださいね。

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