あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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【ネタバレ有】映画「三度目の殺人」 感想・考察と10の疑問点を徹底解説!/名作!見応え抜群のリアルな法廷劇!

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【2018年3月1日最終更新】

かるび(@karub_imalive)です。

今、日本で一番国際的に評価が高い映画監督、是枝裕和監督の最新作「三度目の殺人」が9月9日に封切られました。「そして父になる」「海街Diary」のような、得意のホームドラマ路線は一旦お休みして、シリアスな法廷劇を手掛けた意欲作です。法廷内で福山雅治が大活躍!!!・・・するのかと思ったら、全然違ってました(笑)

でも、見終わった感想としては、これぞ是枝裕和作品というべき、作家性にあふれた大傑作の心理サスペンスに仕上がっていたと思います!

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、考察等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「三度目の殺人」の予告動画・基本情報

▶映画「三度目の殺人」公式予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】是枝裕和(「海街Diary」「そして父になる」他)
【配給】GAGA・東宝
【時間】124分
【原作】是枝裕和・佐野晶「三度目の殺人」

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是枝裕和監督近影
引用:https://filmaga.filmarks.com/articles/1440

本作を手掛けた是枝裕和監督は、元々ドキュメンタリータッチの映画作品からキャリアをスタートし、ここ数作は、リアルな生活描写にあふれたホームドラマを作ってきました。

特に、ここ数年は、福山雅治とのタッグで興収30億を超える大ヒットとなった「そして父になる」や、主役の4姉妹に豪華キャストを起用して話題となった人気マンガ原作の「海街Diary」などを手がけた結果、是枝監督の名前はコアな映画ファンだけでなく一般層へも知名度が浸透してきています。(昨年「君の名は。」が大爆発してる時に勇気ある逆張り気味のコメントを出してちょっとネットで話題にもなりましたね/笑)

2年に1作ペースで制作するとして、「生涯であと10作程度しか撮影できないのであれば、50代のうちに積極的に新ジャンルに挑戦して、先に苦労しておきたいと考えた」、と、インタビューで語っているように、本作「三度目の殺人」は、是枝監督の初挑戦となる法廷劇となりました。

しかし、そんな法廷サスペンスも、フタを開けてみればさすがのクオリティ。企画・脚本段階での弁護士への徹底取材を経て制作された本作は、司法の現場を詳細に至るまでリアルに再現しつつ、監督の作家性もたっぷり反映された大傑作となりました。

2.映画「3度目の殺人」主要登場人物・キャスト

主要登場人物

重盛朋章(福山雅治)
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引用:ABOUT THE MOVIE - 映画『三度目の殺人』公式サイト
ここ数年、「そして父になる」「SCOOP!」等、完璧エリート芸能人としてのパブリック・イメージを崩すような作品に積極的に出続けています。今作でも経済合理性を最優先するクールなエリート弁護士としてスタートし、次第に壊れていく演技が素晴らしかったです。次作は、ジョン・ウー監督の香港・中国映画「MANHUNT」が公開されたことをきっかけに、いよいよ海外に飛躍していくんでしょうか? 

三隅高司(役所広司)
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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube
映画「関ヶ原」での徳川家康役での怪演が素晴らしかった一方、本作でも悪人なのか善人なのか、正常なのかサイコパスなのか掴みどころのない殺人犯役が見事すぎた役所広司。時代劇・サスペンス・コメディ、どんな役をこなしても完璧に演じてみせるその演技力に脱帽でした。 

 山中咲江(広瀬すず)
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引用:ABOUT THE MOVIE - 映画『三度目の殺人』公式サイト
是枝組には高1、15歳時の「海街Diary」以来の2度目の参加。前回出演時からキャリアを積み、同世代の若手女優の中では不動のNo.1の地位を築いての、満を持しての再登板となりました。あちこちのインタビューで是枝監督からその演技・役者としての存在感を絶賛されており、今後も是枝作品で起用され続けそうな感じですね。この秋は、主演作品「先生!」も楽しみです。

摂津大輔(吉田鋼太郎)
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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube
キャリア中盤で検事から弁護士へと転向した、いわゆる「ヤメ検」弁護士。公判前の事前折衝で検事や裁判官との潤滑油的な役割を果たし、出演キャラクター中、唯一のコメディ・リリーフ的な立ち位置でした。吉田鋼太郎がおちゃらけた役を演じるのは珍しく、いつも是枝組常連のリリー・フランキーの代役だったのかな?なんて思いながら見てました。(二人は激似ですし)

川島輝(満島真之介)
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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube
弁護士にはなったけど、独立事務所を構えず、先輩格の弁護士事務所にデスクだけ借りている「軒弁」の若手弁護士。公判以外の場面でも常に弁護士バッジをきちんと装着するなど、3人の弁護士の中で、一番ピュアでスレていない情熱的なキャラクターを好演していました。

山中美津江(斉藤由貴)
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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube
不倫騒動で世間に大きく注目される中、登場人物中最もわかりやすい形で「ダメな」母親を演じた絶妙の配役がなんとも言えない所。自宅でねっとり広瀬すずに後ろから絡みつくシーンはゾクゾクしました。プライベートでの経験が演技にちゃんとフィードバックされているようです(笑)

その他、主人公の父親役、重盛彰久に橋爪功、相手側検事、篠原一葵に市川実日子ら豪華キャストが脇役として配置されています。

3.中盤までの簡単なあらすじ

2017年秋、徹底して勝利にこだわり、年々競争が厳しくなる中、順調にキャリアを伸ばしてきたエリート弁護士、重盛朋章(福山雅治)は、同期のヤメ検弁護士、摂津(吉田鋼太郎)から新たな難事件を持ち込まれた。川崎の河川敷で起きた強盗殺人事件である。殺害されたのは、地元の食品加工会社「山中食品」の社長、山中光男で、妻と娘が遺族として残された。犯人は元従業員の三隅高司(役所広司)。会社をクビになり、金に困って殺害したと警察には供述調書が残っていた。

三隅は30年前にも殺人で無期懲役となった前科を持っていた。敗色濃厚な案件だったが、重盛は、事務所の後輩、川島輝と共に三隅高司の国選弁護人を引き受けることにした。

事前に摂津が手を焼いたとおり、拘置所での数度の接見で三隅の供述は一貫しなかった。被害者の家族フォローや現場検証を一通りこなした後、先に三隅が週刊誌の取材に応じ、「被害者の奥さんに頼まれて保険金目当てで殺害した」と語った内容に乗っかり、重盛は被害者の妻、山中美津江からの殺害依頼メールを物証として、美津江が主犯となった保険金殺人の線で一旦公判準備を進めていく。

重盛はエリート弁護士として仕事では順調にキャリアを伸ばしていたが、家庭は冷たく壊れていた。妻・娘とは別居中で、娘が衝動的に窃盗事件を起こす中、重盛は数度の接見を通して次第に三隅の人となりや事件の真実に興味を惹かれていく。

三隅の住居や実家での調査を進めるうち、次第に事件で被害者の一人娘、山中咲江と三隅の奇妙な関係性が浮上した。そして、第1回の公判終了後、咲江が死亡した父から性的暴行を受け続けてきたこと、美津江のメールは、保険金とは全く関係のなかったことが相次いで判明した。さらに、ここにきて、突然三隅が「本当は私、殺していないんです」と一転して容疑の否認をし始めたのだった。

三隅の真意を測りかねる中、それでも重盛は三隅の意向に寄り添うように弁護方針を変更し、第ニ回以降の公判へ臨む。三隅は証言台で容疑を否認した。法廷内が大混乱に陥いる中、果たして判決はどうなるのか?そして、事件の真実は明らかにされるのだろうか。法廷劇はますます混迷を深めていくのだったー。

4.映画「三度目の殺人」の感想・評価

鑑賞後のモヤモヤしたわからなさがこそが良い!映画的な楽しみにあふれた大傑作でした!

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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube

本作を見終わってまず感じるのは、本当によく練り込まれた脚本・演出だったということです。通常、法廷モノや刑事モノは、物語後半になるにつれ、事件の真相・犯人の特定に必要な情報・手がかりが出揃って、ある一つの結論が明確に(そして劇的に)提示されることで、観客はカタルシスを得るわけです。

しかし、この映画は全く逆のアプローチで映画ファンを楽しませてくれました。物語の進行に合わせ、観客に結末を推理させる材料が提供されていくのは他の映画と同じですが、最終盤で、主人公、重盛がなんとか導き出した「真実」は、あっさり犯人である三隅に覆されてしまい、結局答えは何だったのか、なんだかわからない宙吊りのまま結末を迎えます。

仕方なく、観客は自分たちで映画を振り返りながら推理しますが、映画のタイトル「三度目の殺人」の意味や犯人が誰だったのかなど考えても、決定的な結論に決してたどりつけず、複数の解釈ができてしまうんですよね。この、計算しつくされた脚本・演出のあいまいさが素晴らしい!もう少しでわかりそうなんだけど、でも結局わからないというこの絶妙のバランス感。すごすぎます。鑑賞後に否応なく頭をフル回転させて考えさせられてしまう楽しさ、これこそが本作の醍醐味なんですよね。

重層的に複数浮き彫りになったテーマ設定も秀逸!

優秀な作品は、物語の進行とともに複数の主題が互いに絡み合って浮き彫りになっていくものですが、本作では特にそれが顕著に感じられました。

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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube

まず第一に、司法制度のあり方への強烈な問題提起です。様々な事件関係者が集まり、本来事件の「真実」が解明されるはずの法廷ですが、劇中では、誰も真面目に「真実」には目を向けようとしません。関係者たちの利害調整の場に成り下がってしまっている司法現場での生々しい現実。裁判員制度が導入されて10年になりますが、映画を見る限り、理想的な制度からは程遠いものを感じました。

そして、そんな司法システムに絡み取られ、もがこうとしても実際には何もできなかった重盛と咲江の無力感。そこから導き出される本作の二つ目の主題は、是枝作品で通底して感じられる「人と人とのコミュニケーションの難しさ」でした。三隅のように言動がコロコロ変わる人間の不確かな心や、法廷に集まった人たちが現実を自分の見たいようにしか見ることのできない故に、そもそも人が人を安易に裁くことのと危険性や愚かしさを感じます。

さらに、主人公の三隅・重盛に目を向けると、見事に両者とも「父親失格」振りが際立ちます。これが三つ目のテーマでしょうか。是枝裕和作品では、共通項として、どの作品でも徹底して「ダメな父親像」が描かれます。例えば、「そして父になる」では、仕事ではエリートだけど、子供の心に寄り添えない父親が少しだけ成長する姿を描きますし、「海よりもまだ深く」では阿部寛演じる主人公は大人になりきれず甲斐性のないダメ男です。もっと酷いのは「海街Diary」で、そもそも最初から父親不在な状態でストーリーが進んでいきます。

本作でも、ある意味で鏡像関係にある三隅と重盛は、やはり両者とも妻・娘との関係が断絶していたダメな父親でした。そんな彼らが、「真実」を巡ってやり取りする中で、少しでも自らの娘に償おうとする姿が印象的でした。

様々な映像演出が散りばめられ、片時も画面から目が離せない!

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引用:ABOUT THE MOVIE - 映画『三度目の殺人』公式サイト

また、映画の中で散りばめられた様々な映像的なメタファーも秀逸でした。ストーリーや背景のセリフでの説明は最低限に抑え、映像・演出で謎が深まるように少しずつ見せていく手法は非常に映画的です。ラストまで何度も出てくる「十字架」の意味、謎の手紙、咲江の「赤い」ダッフルコートや手袋、三隅のちょっとした手の仕草、ピーナッツクリーム、逃げたカナリアの意味・・・等々、一秒たりとも画面から目が離せません。

また、7度に渡る接見室での役所広司扮する三隅と、福山雅治扮する重盛のやり取りも本当に見ごたえがありました。善人とも悪人ともつかず、落ち着いていたと思ったら時に狂人のような不穏な表情・言動で重盛を幻惑する三隅。そして、次第に三隅の術中にハマり、真実を追い求めずにはいられなくなる重盛の変化。毎回少しずつ変わる接見室の光の加減や音の響き、そして、ラストシーンで重なり合う二人の横顔・・・

一見単調に思えるような接見室のシーンが、俳優の演技力と、演出の妙でここまでスリリングで見どころたっぷりに仕上がるとは、さすがとしかいいようがないです。

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5.映画「三度目の殺人」をより深く理解するための10個の疑問点・ポイント~伏線・設定を徹底考察!~

是枝裕和監督作品では、物語の結末についての解釈は鑑賞者に委ねられることが非常に多いです。また、劇中での主要キャラについての設定や人間関係の説明も非常にシンプルで最低限に留められます。そこで、本エントリでは、本作をより深く理解し、味わうために、物語の焦点となる10点のポイントに絞り、掘り下げて考察してみました。ネタバレが強めに入りますので、何卒ご容赦下さい。

疑問点1:摂津と重盛の関係は?摂津がヤメ検となった理由とは?

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引用:ABOUT THE MOVIE - 映画『三度目の殺人』公式サイト

本作で吉田鋼太郎が演じる元検事の「ヤメ検」弁護士、摂津は、重盛と同時に司法試験に合格した、司法修習生時代の同期生という設定です。摂津は検事に、重盛は弁護士になりましたが、摂津はキャリア半ばで検事を辞め、弁護士へと転向します。

小説版で明らかにされていますが、摂津が弁護士になった表向きの理由は、一人娘が有名私立高校に入学したため、転勤の多い検察を辞めたということになっています。しかし、重盛は検察の官僚的な組織体制の息苦しさが肌に合わなかったのではないか、と考えているようです。

疑問点2:川島と重盛の関係は?重盛が国選弁護案件を受けた理由とは?

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引用:ABOUT THE MOVIE - 映画『三度目の殺人』公式サイト

川島は、2016年度に司法試験に合格し弁護士となったばかりの若手弁護士です。しかし、大手法律事務所に就職できなかったため、重盛の個人事務所にデスクを借りて仕事をすることになりました。いわゆる「軒弁」(のきべん)です。川島との間に雇用契約はなく、劇中の山中光男殺し以外の別案件では、川島は個人で動いているものと思われます。

重盛が、元々採算性の低い山中光男殺しのような案件での国選弁護人を敢えて引き受けたのは、殺人事件を未経験である川島に経験を積ませて早く独立させてやりたい、という重盛の親心もあったのでしょう。

ちなみに、「国選弁護人」とは、死刑・無期・長期3年を超える懲役等で、弁護士を雇うお金がないため国の費用で専任される刑事事件の弁護人です。後から摂津の要請で弁護に入った重盛も、国選弁護人登録を行っているため、三隅の弁護人となることができました。

疑問点3:三隅の犯した「1度目の殺人」の内容は?

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1度目の殺人の舞台となった「留萌」
引用:ABOUT THE MOVIE - 映画『三度目の殺人』公式サイト

30年前、昭和61年1月21日に三隅が犯した1度目の殺人事件は、彼の郷里、留萌(るもい)で起こした「留萌強盗殺人事件」でした。借金取り2人が住む自宅に放火し、金を奪って殺したのです。当時取り調べを担当した渡辺刑事の話では「個人的な怨恨は感じられず、空っぽの器のようだった」とのことでしたね。

ちなみに、留萌は昭和初期まで、炭鉱の町として賑わいましたが、石炭が斜陽産業となってからは、街は不景気になり、失業者で溢れていたといいます。高利貸しに手を出す元炭鉱労働者も多数いたのでしょうね。

疑問点4:咲江はなぜ足をひきずっていたのか?

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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube

劇中で、川島のセリフに咲江のケガは「生まれつきだった」みたいです、とありました。しかし、咲江本人は「飛び降りてケガをした」と言い張っており、食い違っていました。これが咲江の虚言癖なのか、それとも川島が聞いてきた情報が間違っていたのかは、劇中では示されていません。咲江に虚言癖があるのかないのか、劇中の広瀬すずの演技から観客が判断するしかないのですよね。ちなみに、接見室で、三隅は咲江のことを、「あの娘はよく嘘をつきますよ」と証言していましたね。

疑問点5:三隅の飼っていた5羽のカナリアは何を意味していたのか?その隠喩とは?

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引用:Wikipedia「カナリア」より

三隅は犯行に及ぶ直前、大家に断わった上で自宅で飼っていたカナリアを5羽殺して庭に埋め、小石で十字架をあしらった墓標を作っていました。この「5羽のカナリア」は恐らく彼が30年前の殺人事件で殺害した、または、結果的に不幸な死に方をさせてしまった者たちのメタファーだと思われます。

カナリアは、観賞用だけでなく、「炭鉱のカナリア」と呼ばれる通り、カゴの中に入れられ、炭鉱や洞窟で毒ガス検知をするためによく使われます。(オウムサリン事件の時も実際に使われていた)つまり、カナリアとは、強者の都合に運命を左右されがちな「抑圧された弱者」の象徴だったと思われます。

「5羽のカナリア」とは、元炭鉱の街、留萌で三隅が死に追いやった5人、すなわち、殺害した借金取りの二人、不幸な死に方をした元妻、三隅の父母の合計5人を表現していたのではないでしょうか?

ちなみに、「1匹だけ逃げましてね」と三隅が供述した「1匹」とは、この後の山中光男殺しで彼が解放しようとしていた咲江を表していたと思われます。公判結果を聞いた後、看守に導かれて法廷を後にする三隅が、部屋を出る時に咲江だけに見えるよう、カナリアが飛んで行く仕草を手で表現していたことからもわかりますね。

疑問点6:三隅が重盛の父に宛てたハガキにはなんと書いてあったのか?何のために出したのか?

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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube

実際に公判中で証拠資料として供されることはなかったものの、重盛の心象を大きく左右した、三隅が重盛の父に宛てた一枚のお礼状。咲江と河原で雪遊びをした5日後に投函されています。文面は、以下の通りでした。

重盛裁判長様。ご無沙汰しています。裁判でお世話になった三隅高司です。昨年、仮釈放され、今は川崎の食品加工工場で働いています。先週、こちらでも大雪が降って、故郷の北海道を思い出しました。娘の誕生日に雪で大きなケーキをつくったんです。娘は手袋をしていなかったので、私のをひとつ渡しました。娘は手を真っ赤にしながら、自分の背より大きなケーキをつくっていました。冷たくて・・・温かい思い出です(ノベライズ「三度目の殺人」より引用)

ここで言う「娘」はもちろん咲江を表すメタファーです。「手袋を渡した」とあるのは、二人で共謀した、ということを示唆しているのでしょうか?また、ここで言及されている赤い「手袋」は、その後咲江が両手にはめていた手袋と関係があるのでしょうか?非常に謎ですが、咲江と三隅が共謀して殺害したシナリオも十分ありえると思えるような意味深なエビデンスでした。

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疑問点7:重盛はプライベートでどのような問題点を抱えていたのか?

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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube

重盛は、ありていに言うと仕事で「勝つ」ことに生きがいを見出すワーカホリックです。(徹夜で仕事をしているシーンが2回も劇中のワンカットとして映し出されました)仕事にのめりこむあまり、そのしわ寄せが家庭へと波及し、三隅の事件にかかわる1年前から妻・一人娘の結花(14歳)と近所で別居中となっていました。

弁護士制度改革によって、ここ10年で急増した弁護士の数。生存競争を勝ち抜くため、民事・刑事を問わず仕事を24時間体制で引受け、実績を上げてきた重盛は人気弁護士となっており、猛烈に忙しくなったのでしょうね。

仕事に追われ、それを言い訳にさらに仕事に逃げ込んだ重盛と母娘の断絶は、すでに引き返せないところまで来ていたということでしょうか。

疑問点8:結局、誰が事件の真犯人だったのか?

本作では、山中光男殺しの犯人を特定するための決定的な情報・証拠が敢えて提示されずぼかされています。そのため、犯行のシナリオや犯人が誰だったのか、複数の解釈が成り立つのです。そもそも犯人探しが本作のメインテーマではないのですが(笑)、敢えて推理してみることにします。

個人的には、映画冒頭で描かれたとおり、咲江の想いを忖度した三隅が、自らの「死刑」を覚悟した上で起こした単独での犯行と考えています。なぜなら、

・犯行時刻直後のタクシー車載カメラに写った仕草
・三隅から押収した被害者の財布にガソリン臭がした
・几帳面な三隅は、事件前に身辺を整理している
・咲江は平然と受験勉強をするなど日常生活を平然と送っている。もし殺害に直接関与していたなら、もっと動揺しているはず

といった、劇中の状況証拠に加え、監督自らが、インタビューで三隅が単独犯であることを示唆しているからです。

出てくるたびに違う人に見える――善人にも見えれば、悪人にも見えるし、誰かを救おうとしたようにも見えれば、裁こうとしたようにも見えるし、もしかすると(殺人を)やっていないようにも見える。そういう多面性のようなものを、役所さんなら表現できるだろう、と思っていました。でも、僕が思っていた以上に出てきたので、正直、僕も見ながら「これ……殺していないんじゃないかな……こんな脚本を書いたかな……」という瞬間が結構ありました。是枝裕和が思う「日本で一番うまい役者」役所広司と福山雅治の真剣勝負『三度目の殺人』【ロングインタビュー】 | FILMAGA(フィルマガ)

上記赤線部分は、逆に言うと、基本的には三隅の単独犯として脚本を書き、撮影を進めていた、という解釈ができます。

僕自身が非常に混沌とした森の中に入ってしまったんですよ。役所さんの芝居を見ながら『やっていないっていう流れもあるかあ……』『やっていないとしたら誰が?』『法廷で誰かが告白したらどうなるんだろう……』とか、それで書いたパターンも実はあるんですよ。三度目の殺人 インタビュー: 是枝裕和監督が投じた新たな一手、その真意に迫る (2) - 映画.com) 

別のインタビューでも、役所広司が最後に「殺人をやっていない」と供述を変えた迫真の演技を見て、「やってない」という脚本も書いてみた(けど採用しなかった)というふうに読むことができますよね。

疑問点9:映画タイトル「三度目の殺人」の意味とは?

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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube

これも、複数の解釈が可能です。まず、1度目は「留萌強盗殺人事件」、2度目が山中光男殺し。ここまではいいとして、3度目は、死刑判決を受けた三隅高司のことを指していると解釈するのが一番自然でしょうか?司法関係者・被害者が法定内で利害調整した結果、確定した三隅の死刑。ならば、三隅は、自らの起こした2度の殺人事件について一連の裁判や取り調べなどを経て、司法のプロセスを通して合法的に「殺害された」と言っても言い過ぎではないでしょう。

また、重盛も、三隅の心理操作に心を侵食されて、「精神的に」殺されたとみなすこともできそうです。ラストシーンで十字路に立ち、途方に暮れているように見える重盛は、自らの心の中に生じた(三隅殺しに加担してしまったという)罪の意識を背負って今後どう生きていけばいいか、心が「空っぽの器」のような状態になっていたことでしょう。以後、勝利至上主義なドライな法廷戦術を続けられる精神状態になく、これ以上弁護士を続けられない心境になっていたとしたら、重盛もまた、三隅に精神的に殺されたと言ってもいいのかもしれません。

さらに、映画内では省略されましたが、ノベライズ版での設定では、三隅の父親は、三隅が高校生の時に、自宅の火事で焼死しています。殺害時、必ず【火】を使う三隅は、ひょっとしたら父を殺害している可能性もあります。すると、1度目は高校時代の父親殺し、2度目が留萌強盗殺人事件、3度目が山中光男殺し、と解釈することもできるのですよね。

このように、複数の解釈が可能な深遠なタイトルもまた、見事だったと思います。 

疑問点10:ラストシーンなど、映画内でたびたびあらわれた「十字架」の意味とは?

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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube

映画内では、繰り返し、しつこいくらい「十字架」のモチーフが使われました。ざっくり見ても、以下のシーンで使われています。

・焼死した山中光男の犯行現場の燃え跡
・雪合戦の回想シーンで倒れ込んだ三隅と咲江の姿勢
・三隅が庭に作ったカナリアの墓
・咲江の立ち寄ったパン屋の名前「丸十ベーカリー」
・ラストシーンで重盛が見上げた電線の交差する形
・ラストシーンで重盛が立っていた十字路

7回目の接見シーンで、まるで三隅が神父のように見えたり、法廷の内外で弁護側が3人居並ぶシーンが「三位一体」で描かれるキリスト教的宗教画のモチーフに似ていたことから、この「十字架」も、基本的にはキリスト教的な隠喩として「罪」「裁き」を象徴していたのだろうと思われます。

三隅は、心の底では「誰かを裁く強い力を持ちたい」と願っていた反面、彼自身が生涯を通して司法によって「裁かれ続ける」存在であり続けました。自らの強い力へのあこがれが衝動的な殺人としての「裁き」につながり、そしてそんな自分が法廷で「裁かれる」、そんなダブルミーニングだったのかもしれません。

そして、三隅の一種の鏡像でもある重盛にとっては、この十字架は、法廷で三隅を救えなかったことにより背負ってしまった罪の意識や、これからの人生に対する心の迷いを表現していたのでしょうね。 

6.まとめ

映画を見終わった後、今年一番と言っていいほど考えさせられた作品でした。結局犯人が誰だったのか?という謎解きから、本作に散りばめられた様々なテーマ、映像表現に示されたメタファーなどを読み解くのが非常に楽しかった本作。映画を見ることの楽しさ、奥深さが味わえた傑作だったと思います。

ベネチア映画祭では惜しくも「金獅子賞」は逃してしまったようですが、作品としての完成度、役者陣の熱演など、名作にふさわしいクオリティでした。何度も繰り返し楽しめる素晴らしい映画です。おすすめ!

それではまた。
かるび

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