あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

MENU

混雑必至のダリ展は10年ぶりの大規模回顧展!おすすめです!

【2016年9月1日更新】

かるび(@karub_imalive)です。

毎年8月のお盆には、京都にある実家に帰省しています。今回、せっかくなので、普段行けない関西の美術展回りを精力的にやろう!ということで、東京展@国立新美術館(2016年9月14日~)に先駆けて、京都市美術館でダリ展を見てきました。

今回のダリ展は、10年ぶりの大回顧展ということで、企画発表段階からファンの期待度が高く、注目の美術展でした。混雑度で言うと、2016年下期No.1になるんじゃないでしょうか。今日は、そんなダリ展について少し書いてみたいと思います。

1.混雑状況と所要時間目安

ちょうど10年前に上野の森美術館にて行われた回顧展、「ダリ回顧展 生誕100周年記念展示会」は入場者数が50万人を突破するなど、非常に大盛況でした。今回も、京都展は連日大混雑でした。

8月10日時点で、すでに京都展だけで入場者数が10万人を突破したとの公式発表もあります。東京展でも、京都展以上の人出が予想されますので、いかに混雑を避けてゆっくり見るか、よく検討したほうが良いと思います。

なお、京都展の後に開催となる東京展は国立新美術館の1Fスペースとなり、もう少し広くなるので、人が入っていても息苦しさは少し緩和されそうな気がします。

さて、僕が行ったのは、8月11日(木)山の日の14時頃。まさにお盆の真っ最中。最悪の混雑状況であります(笑)入場制限こそしていませんでしたが、入り口に入りきれないお客さんの行列が外まで伸びていました。

f:id:hisatsugu79:20160815115613j:plain

f:id:hisatsugu79:20160815115626j:plain

やっとの思いで中に入ったところ、お盆休み中だったからか、鬼のように混雑していて、美術館内はちょっと作品がまともに見きれないほどの人口密度でした。京都市美術館の狭さもあって、暑いし見えないしで、居心地の悪さはハンパなく、かなりの消耗戦となりました。

いや、、、下馬評通りの凄い集客です。土日は混雑必至なので、時間帯をずらして、朝一や開館延長日の夕方などに行くことをおすすめします。

作品点数が200点以上と多めなので、所要時間は90分以上見ておいたほうがいいと思います図録は公式HPで事前でも購入できるので、先に購入して予習をしておくといいかも。

2.ダリ展の音声ガイドは竹中直人

f:id:hisatsugu79:20160815121059p:plain
(引用:https://pbs.twimg.com/media/CmMC_fmUcAAZwjo.jpg:large

音声ガイドは19トラック全35分で550円。竹中直人の情熱的な解説は、スペイン出身のダリにあっていると感じました。なんでルー大柴じゃないんだ

シュルレアリスムのような20世紀絵画を見る場合は、歴史的な背景や思想的な文脈がないと、なかなか満足に理解できないことが多いので、解釈のヒントになるような解説満載の今回の音声ガイドは非常に役に立ちました。

3.ダリ展のコンセプト

今回のダリ展は、主にスペインのサルバトール・ダリ財団、フロリダのダリ美術館、そしてスペインの国立ソフィア王妃芸術センターの主な3ヶ所から、作品を集めています。これに加え、諸橋近代美術館(福島・裏磐梯)、横浜美術館他、日本中のダリ作品を所蔵している美術館からも貸出を受け、全200点以上の展示品が揃いました。

展示では、ダリが絵画を志したスペイン、リガトでの少年時代から、アメリカに渡って活躍した最晩年の作品まで、ダリの生涯を追いながら、その作品や作風の変遷をたどっていけるような展示構成になっています。

特に、シュルレアリスム時代だけでなく、その前後の時代の作品も要注目です。1920年代、まだダリが自身の作風を模索・探求していた青年時代には、キュビスムやピュリスム、そして印象派風の絵画など、あらゆる作風を研究していたことがわかります。

そして、戦火を避け、アメリカに渡ってから舞台芸術や絵本の挿絵、宝飾品など、活動の幅を広げたダリの絵画以外の作品も見どころ満載です。

4.ダリとシュルレアリスム

f:id:hisatsugu79:20160815122349j:plain

サルバドール・ダリ(1904-1989)はスペイン出身の、20世紀を代表する美術家です。主に、シュルレアリスム(Surrealism)の代表的作家として世界的に有名になりました。

シュルレアリスムというのは、フランスの詩人、アンドレ・ブルトンが提唱した思想活動で、日本では「超現実主義」と訳されることが多いです。1930年代以降、絵画・映画・詩・小説などジャンル横断的にでその思想を反映したアート作品が制作されました。

彼の描く絵画は、いわゆる現代アート然とした抽象絵画ではなく、誰でも見てわかる具象絵画です。ただし、描いた対象物が非常にユニークでした。独自のセンスで、現実にはありえない夢や無意識下、空想上の光景や不思議な構図の絵画を描き、人気を博しました。

5.セルフ・プロデュースの天才、そして妻のガラ一筋だった

ダリは、徹底的に「自己演出」にこだわった、セルフプロデュースの天才でした。特に1940年代に第二次大戦中にアメリカに亡命してからは、絵画だけでなく、彫刻、舞台芸術、映画など様々な分野の芸術にジャンル横断的に取り組んだ天才アーティストでもありました。

我が強く、戦略的な売り込み上手で天才肌のマルチタレントと言うと、ダリ以外にピカソがすぐに思い浮かびます。そのピカソとダリが根本的に違っていたのが、女性遍歴です。

ピカソが終生浮気ばっかしていた(笑)のとは対照的に、ダリは、25歳の時に、10歳年上のガラと運命的な出会いをします。それ以来、どんなことがあってもガラ一筋で、恋愛においては非常にピュアな人なのでした。

特に、ガラをモチーフにした絵画や彫刻作品を多く残しており、今回の回顧展でもガラについての関連絵画やエピソードも整理・展示されています。

風貌については、日本人で一人滅茶苦茶似ている人がいます。ルー大柴です。・・・と思ったら、今回京都市美術館のダリ展のフライヤーで、実際にそっくりさんとして取り上げられていました。本当に似ています(笑)

f:id:hisatsugu79:20160815124052p:plain

6.ダリ作品の注目点について

ダリの作品では、彼の得意とした技法やモチーフが、繰り返し随所で使われています。ここでは、僕の考えた主な注目点4つを、いくつか作品を使いながらピックアップしてみたいと思います。

6-1.繰り返し色々な作品で使われるモチーフ

ダリは、数多くの作品において、彫刻や絵画の中でお気に入りのモチーフを何度も作品に登場させました。

★その1:「引き出し」
f:id:hisatsugu79:20160815124932p:plain

引き出しのイメージは、絵画より彫刻作品でよく使われていますが、フロイトに強い影響を受けていたダリは、「引き出し」を精神分析における無意識下の領域の比喩として捉えていました。

★その2:「歪んだ時計」

f:id:hisatsugu79:20160815155308p:plain
(引用:ダリ展公式HPより

ダリの「歪んだ時計」は、彼にとっての最重要モチーフと言ってもよく、複数の絵画、彫刻、宝飾品などで繰り返し使われています。ダリ自身はこのモチーフを「カマンベールチーズから着想を得た」と語っていますが、ダリの宇宙観や物理科学観を表しているとも言われます。

その他、『パン』や『ピアノ』、『ガラ(奥さん)』『スペインの海岸の岩場』なども、くり返し使われているモチーフです。是非、チェックしてみてください。

6-2.妻、ガラとの関係

妻、ガラ
f:id:hisatsugu79:20160815171557j:plain

ダリが25歳の時、シュルレアリストの会合で友人から紹介され、妻となるガラと運命的な出会いをします。ガラは当時すでに既婚者でしたが、歳の差も条件もお構いなく、二人はすぐに意気投合して結婚してしまいます。

その後、ダリはガラと死ぬまで添い遂げましたが、ダリにとってガラは聖母マリアのような存在であり、創造力の源であったとともに、ダリの編集者、プロデューサーとして芸術活動を支えました。

今回の展覧会でも、第4章で、『ミューズとしてのガラ』と題して、ガラをモチーフにした幾つかの絵画が紹介されています。

ガラの測地学的肖像f:id:hisatsugu79:20160815131202j:plain

6-3.形態学的なこだま

ダリの絵が、奇妙な物体の取り合わせなのに、妙に絵画全体にリズム感や整合性が感じられる理由の一つとして、この「形態学的なこだま」技法が挙げられます。ダリは、1930年代以降、一つの形態を様々な異なるテーマに変化させ、一枚の作品の中で繰り返し描くこの「形態学的なこだま」を得意としました。解りやすく言うと、一種の「だまし絵」みたいなものですね。

アン・ウッドワードの肖像
f:id:hisatsugu79:20160815152640j:plain
(引用:https://www.salvador-dali.org/cataleg_raonat/index.php

上記の絵では、銀行家として財をなしたウッドワード家に嫁いだアン・ウッドワードを描いた肖像画ですが、アンの輪郭の形をした岩や、彼女の白いドレスの胸元のドレープと、砂浜に置かれた貝殻、腰に巻かれた青いベルトと水平線などが、ダリが表現した「形態学的なこだま」です。

その他の作品にも繰り返し使われている面白い技法なので、是非チェックしてみてください。

6-4.ダブル・イメージ

ダブル・イメージとは、絵の中にあるイメージ(意味)にもう一つのイメージを重ね合わせて表現する技法で、これも一種のだまし絵みたいなものだと思います。例えば、以下は、ダリのダブル・イメージの作風が反映された典型的な作品です。

ビキニの3つのスフィンクスf:id:hisatsugu79:20160815154331j:plain
(引用:https://www.salvador-dali.org/cataleg_raonat/index.php

戦後、原子爆弾や核実験に非常に興味が傾いたダリが、ビキニ環礁での核実験を主題に制作した一枚。本作品では、原子爆弾が投下された際のキノコ雲と人間の頭部(アインシュタインを表しているという説あり)がダブルイメージによって描かれています。

ちなみに、画面左側の樹木は、「形態学的なこだま」技法によって、似たような形で描かれていますね。

7.印象的だった展示作品

上記で紹介した以外に、興味深かった作品をもう少しだけ紹介したいと思います。200点以上あるので、選ぶのが大変です・・・。

7-1.「ラファエロ風の首をした自画像」

f:id:hisatsugu79:20160815160234p:plain
(引用:ダリ展公式HPより

ダリが20歳になる前に描かれた、シュルレアリスムへ移行する前の若い時の作品。彼が尊敬するラファエロをモチーフとした自画像風ですが、ポスト印象派的な自由な色彩感覚が面白い一枚でした。

7-2.「奇妙なものたち」

f:id:hisatsugu79:20160815160512p:plain
(引用:ダリ展公式HPより

彼の重要なモチーフである「歪んだ時計」や、彼の出身地であるカダケスの海岸の岩場、引き出し、ピアノなどが配置されています。女性の下半身と赤い建物の毛のようなもので覆われた入り口部分、口部、白い椅子の肘掛と女性の右腕に「形態学的なこだま」も仕掛けられており、彼のシュルレアリスム充実期の一枚と言えそうです。

7-3.「ポルト・リガトの聖母」

f:id:hisatsugu79:20160815161759j:plain
(引用:The Madonna of Port Lligat, 1950 by Salvador Dali

ガラを聖母マリアに見立てて、祭壇画形式で描いた作品。中世からの伝統的宗教画のスタイルを踏襲しても、ダリが描くとなんとも不思議で哲学的な浮遊感のある作品に仕上がるのが面白いです。この福岡市美術館蔵の他にも、同タイトルの似たような構図の作品があり、ガラへの愛情も伝わってきます。

7-4.「ラファエロの聖母の最高速度」

f:id:hisatsugu79:20160815162224p:plain
(引用:ダリ展公式HPより

ダリは1940年代後半頃から、量子物理学や原子爆弾といった最新の科学への強い関心を持ち始めます。その興味関心は、そのまま彼の作品制作へ反映されましたが、そのハイライト的作品として展示されていました。

本作でも、彼の尊敬するラファエロの「聖母」のイメージを借用しつつ、物理学的な世界観を視覚的なイメージとして表現しようとしており、中世以来の伝統的西洋絵画と最新の科学の融合を図ろうとする探求者としての貪欲な姿勢が感じられました。

8.まとめ

今回のダリ展では、鑑賞中のお客さんの表情や、話しているトーク内容も面白かったです。作品と向き合っても、わかったようなそうでないような感じの神妙な顔つきをした人が多く、聞こえてくるのは微妙な感想。「おどろおどろしい感じがなんともいえないよね。」とか。

僕もそうでしたが、ダリの絵は、抽象絵画ではなく具象絵画のため、中途半端になんとなくわかった気になる。でも実際はその絵や構図は何を意味しているのか、エキセントリックすぎて、パッと見ではもう一つよくわからない。

けれども、後になって何度も画集を見返すと、繰り返し現れるモチーフやパターン、ダブル・イメージなど、よく計算された構図と背景が見えてきます。また、背景にある哲学的な土台に、意外性のある幻想的な風景、それらが一体となって、ダリ独自の世界観を形作っていることがわかってきます。

また、ダリの作品は、常に時代の最先端の思潮や流行に非常に敏感に取り入れ、反応してきた彼の芸術家人生の歴史のそのものでもあります。シュルレアリスムの寵児になって以降も、常に時代の最先端で様々な形態のアートを通して、自分自身の考えや気持ちを鋭く語りかけました。

今回の回顧展では、200点以上の作品を時系列で丹念に見ていくことで、ダリの凄さや彼の生涯追い求めたものが何だったのか俯瞰できる、非常に良い機会になると思います。人が多くて混雑していましたが、何度もまた足を運びたくなる美術展でした。

それではまた。
かるび

展覧会情報

展覧会名:「ダリ展」
会期:
【京都】2016年7月1日(金)~9月4日(日)
【東京】2016年9月14日(水)~12月12日(月)
会場:京都市美術館、国立新美術館
公式HP:http://salvador-dali.jp/
Twitter:https://twitter.com/s_dali_2016

参考文献

今回の展示で、非常に予習、復習に役に立った文献を最後に紹介しておきますね。会場か、その近くの書店でも売っているかも。

ダリの生涯・思想・作品などが非常に分かり易く、読みやすくまとまった伝記的読み物。図書館などでも「ティーンズコーナー」の棚に入っていることがあったりと、入門者にぴったりな一作。何冊か予習復習に書籍を読んだ中で、一番良かったです。オススメです。

ダリがブレイクした1930年代、彼はシュルレアリスムという芸術運動における時代の寵児として一躍人気芸術家になったのですが、そもそもシュルレアリスムってなんなのか?っていうことになると、これがなかなか難しい(笑)大抵は、哲学コーナーに難しい本が一杯刺さっているのですが、この本は入門本として分かりやすかったです。Wikipediaで調べたけど、もう少し詳しくシュルレアリスムについて見てみたい!という人にはこちらが良いと思います。